本研究は、数量表現の意味の獲得を実証的に調査することによって、言語獲得モデルの妥当性を検討し、言語獲得原理の内容を解明することをその目的としている。本年度は、「ほとんど」の意味の獲得の実証的研究を行った。松藤(2000)で指摘した数量表現の意味の獲得順序に関する一般特性のうち「比率的数量詞の中で比率の100%の表現が1番早くに使われ、その次にそれより比率が少ない表現が使われる」に関して、日本語を母語とする子どもにおいて、比率が100%より少ない表現(「たいてい」「大部分」「ほとんど」)の獲得を調べると、自然発話資料でも観察されず、これまで実験研究もなされていないようである。そこで、松藤(2008)では、日本語を母語とする大人と子どもに、場面を絵と物語で提示し、刺激文が場面設定に合致するかどうかをYes/No疑問文で問い、子どもから真偽の判断の情報を引き出す真偽値判断課題と呼ばれる実験を行った。その結果、日本語児は「ほとんど」が持つ比率の意味を獲得することが遅く、10歳ぐらいに主語・目的語にある「ほとんど」を正しく理解することを明らかにした。比率が100%の表現(「全部」)は4歳ぐらいに獲得されるが、それよりかなり遅い10歳ぐらいに、比率が100%より少ない表現(「ほとんど」)の意味が獲得されることを実証した。
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