本研究は、数量表現の意味の獲得を実証的に調査することによって、言語獲得モデルの妥当性を検討し、言語獲得原理の内容を解明することをその目的としている。本年度は、英語と日本語の物(個別性のある物とない物)に対応して使われる数量表現の相違に関して、認知的側面(物の捉え方の傾向)と言語的側面(名詞や数量表現の獲得の様相)に注目して、どのような説明を与えることが可能かというような問題を考察した。 考察の結果、英語では、個別性のない物に対する専用の数量表現があるのは、個別性のある物と対比させた形で、獲得早期に個別性のない物が認識され、それに対応する不可算名詞という文法クラスが確立し、不可算名詞を数えるそれ専用の数量表現が英語にはあるからである。日本語では、物の個別性に対する数量表現の分類は、日本語児の早期獲得物であり、日本語の大人のものではない。個別性のない物に対する専用の数量表現がないのは、個別性のない物に対する名詞の文法クラスがなく、個別性のない物を数えても意味がないという乳児からの知識に基づいている。日本語の大人の分類は、助数詞獲得により、物のとらえ方が変化し、物カテゴリー全体が素材として捉えられるようになり、名詞クラスがまるで不可算名詞の集合のように扱われ、その集合全体に対して、助数詞や不定数量を表す数量表現が使われることを議論した。 さらに、英語でみられた早期獲得の背後には、ある段階の知識は前の段階の知識に基づいており、その知識の内容に対比関係があるという原理が働いているという結論を導いた。
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