研究概要 |
本研究の目的は、名詞節化形式という言語事象を通して、英語と日本語の個別性、普遍性の両面を体系的に明らかにすることである。研究初年度の本年度は、最近の言語理論の研究成果を踏まえながら、両言語間の言語化プロセスの異同を実証的に深いレベルで分析した。本研究対象となる名詞節化形式を含む諸構文のうち、英語のIt is that節構文やS take it that節構文に関する基本的分析はOtake(2002)("Semantics and Functions of the It is that-Construction and the Japanese No da-Construction."In Tania Ionin, Heejeong Ko and Andrew Nevins (eds.). MIT Working Papers in Linguistics, Vol.43, Cambridge, Massachusetts : MIT, Department of Linguistics and Philosophy.(マサチューセッツ工科大学(MIT)言語哲学学科)pp.143-157.)、大竹(2004)(「S+take+it+that節構文の意味と談話機能」『英語語法文法研究』英語語法文法学会学会(編),第11号,東京:開拓社.pp.79-93.)を中心に発表済みであるが、本年度はこれらの英語構文を日本語の「の」節を含む構文と比較対照した。具体的には、{It is not that / Not that}節構文と「のではない」構文、S take it that節構文と「のだ(よ)ね」構文を統一的視座から考察し、英語構文においては指示表現itが情報の既定化に積極的に貢献するが、日本語の「のではない」構文や「のだ(よ)ね」構文においては名詞節化機能を担う補文標識「の」が命題情報を既定化することを明らかにした。また、次年度の理論的研究の基礎資料として各種データベース、新聞、雑誌、映画、母語話者の発話などから研究対象の構文を収集し、発話場面や音声的特徴について分析した。本研究の萌芽的研究成果は言語学の専門誌のみならず、日英語の言語教育に関する学術専門誌にも発表されている(大竹(2001)"Application of Linguistic Knowledge to English Teaching : from the Viewpoint of Recent Semantic and Pragmatic Studies." JABAET Journal,日英・英語教育学会学会(編),Vol.5,pp.87-105.など)。本研究は幅広い学問領域との関連性を視野に入れており、成果として得られる言語学的知見が英語教育及び日本語教育でどのような教育的意義や活用可能性があるのかについても検討を開始した。
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