本研究では、従来は個別的に論ぜられてきた英語と日本語の名詞節化形式について、両言語を共通の視点から比較・対照しながら、知覚や認識の対象を言語化するプロセスの共通性と相違を原理的に明らかにすることを究極的な目標とする。本年度は、第一に、日本語の名詞節化詞「の」を伴う「のだ」、「のではない」、「のか」、「ので」に対応する英語の諸構文の分析・考察結果をとりまとめ、博士論文『「の(だ)」に対応する英語の構文』を明海大学に提出し、学位(博士(応用言語学))を3月に取得した。本学位論文では、itの指示性に関する最近の意味論研究や語用論研究の成果、さらには日本語の「の」節との比較検証を踏まえて、「の(だ)」構文に対応する英語構文の構造、意味、機能を解明した。第二に、英語以外の世界の諸言語における「の(だ)」と同種の構文を次年度以降の研究の基礎資料として収集し、関連する先行研究を検証した。具体的には、「の(だ)」構文に対応する英語構文のひとつであるIt is that節構文と同一の文脈環境に生ずる他言語の構文を示し、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ハンガリー語にも同種の構文が存在することをDelahunty(1990;2001)などの観察に基づいて考察した。また、「の(だ)」構文に対応する韓国語や中国語の構文研究を概観した。「の(だ)」構文に対応する構文は世界の諸言語に存在し、意味や機能において類似した特性を示す。日本語のように補文命題の既定性を表出するために名詞節化詞「の」、「こと」、「もの」、「わけ」などを発達させてきた言語や、英語のように主題表示が義務的で補文形式のみならずitの指示特性を活用しながら既定性を積極的に合図する言語など、言語により既定性の保証過程が異なることを確認し、次年度以降の研究課題を明らかにした。
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