研究概要 |
本研究は、日英語の名詞節化形式について共通の視座で比較・対照しながら、知覚や認識の対象を言語化するプロセスの異同を原理的に明らかにすることを究極的な目標とする。研究最終年度の本年度は、平成18-19年度の実証的研究で得られた成果を理論的に検証すると同時に、国際的学術動向を踏まえつつ名詞節化形式を伴う諸構文の意味論的、語用論的特性を明らかにした。第一に、本研究の基本的着想を発表したOtake(2002)(“Semantics and Functions of the It is that-Construction and the Japanese No da-Construction."MTT Working Papers in Linguistics. Vol. 43. 143-157.Dep.of Linguistics and Philosophy, MIT, Cambridge, Mass.米国マサチューセッツ工科大学.)の研究成果が、国外の言語学者たちの最新論文において世界の諸言語の推論構文の先駆的研究として一定の評価を受けていることが確認できた。cf.Rosenkvist(2007)、Koops(2007)これらの論考を批判的に検証しながら、It is that節構文及び南部スウェーデン語のDet ar som構文と「の(だ)」構文とに共通する語用論的効果を考察し、解釈・実情を伝える構文の言語間に見られる特性の異同を分析した。第二に、解釈・実情を表すlt is that節構文と同一談話中にしばしば共起するIt is not like節構文に焦点を当て、It is not like節構文は、先行する内容に関して聞き手が心中に描くと想定される具体的な状況イメージを引き合いに出して比況したうえでそれを否定すること、結果的に聞き手には容易には知りがたい実情や真相を談話に提示するという意識が話し手に生ずることを明らかにした。なお、本研究成果の一部は、平成21年度日本学術振興会科学研究費補助金(研究成果公開促進費(学術図書)課題番号215060)により『「の(だ)」に対応する英語の構文』(東京:くろしお出版)として刊行される。また、平成21-23年度日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:大竹芳夫)課題番号21520502「日英語の名詞節化形式の意味と談話機能の派生メカニズムに関する理論的・実証的研究」の新規交付を受けることが内定しており、本研究で見出された基本的知見と着想を、次年度以降の研究においてさらに深化、発展させながら、成果を国内外に向けて積極的に発信する予定である。
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