研究概要 |
1.母音の明瞭度と音響的特徴 日本語話者が発音した11種類の英語単母音の発音の明瞭度を米語母語話者に3段階(3が最良)で評価してもらった結果、最も低い音は/〓/(1.54)で、日本人にとって難しい発音であることがわかった。明瞭度が最も高かったのは/i:/(2.89)である。 前舌母音について、発音の明瞭度が低い音から順に/I/、/〓/、/ε/、/i:/であった。明瞭度の低い/I/は高い/I/よりも持続時間が長く、/i:/と聞き間違えられる傾向があり、明瞭度の低い/i:/は第一フォルマント(F1)が高く、/I/と聞き間違えられる傾向にあった。明瞭度の低い/ε/はF1が低く、/I/と聞き間違えられ易く、明瞭度の低い/〓/は第一、第二フォルマントが低く、/Λ/と聞き間違えられる場合が多かった。 2.子音の明瞭度と音響的特徴 語頭無声閉鎖音/p,t,k/について、明瞭度の低い発音は高い発音に比べてVOT(有声開始時間)が短く、有声閉鎖音/b,d,g/に聞き間違えられる可能性が高い。 後続母音が/i:/を持つ英語摩擦音/s/と/∫/の日本語人の発音の明瞭度は、/s/(2.45)よりも/∫/(2.27)の方が低い。明瞭度の低い/s/は雑音エネルギーのピーク周波数が低く、明瞭度の低い/∫/はピーク周波数が高く、それぞれ日本語「シ」の子音/〓/に似た特徴を持つ。このため、明瞭度の低い/s/、/∫/は、それぞれ/∫/、/s/と聞き間違えられ易い傾向にあることがわかった。 後続母音/i:/を持つ英語語頭子音/j/の日本語話者の発音の明瞭度が高い場合、後続母音にかけてF1が大きく上昇し、第三フォルマントが下降する。明瞭度の低い発音はこの音が認識されず、"yeast"が"east"と聞き間違えられ易い。 後続母音が/ε/を持つ英語語頭子音/w/よりも、後続母音/〓/を持つ/w/の方が明瞭度が低い。/〓/にかけてF1の上昇度が大きい場合には/w/の明瞭度が高く、/w/の円唇度の重要性が示唆される。 日本語話者の英語の発音には母語干渉が見られるが、その特徴を明瞭度別にとらえることで、英語音声教育により詳細な示唆を与えることができる。
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