本研究において採用されている仮定「音声表示は、音韻計算装置間の最適な均衡点である」という仮説は着実に立証されてきている。平成19年度の研究は音韻部門の研究のみならず、言語と意識の関係をも取り上げ、研究を展開してきた。とくにUniversity of Adelaideにおいて行われたASCS 2007においては、言語の構造と自由の意識の構造が相似的な関係を有していることを示した。 まず手の指の動きを観察してみよう。私たちは傷害のない限り、指は自由に動くものと意識している。ところが、親指に四本の指が対している構造になっており、しかも指それぞれの動きは極めて限定されている。このように指の「自由な動きという意識」は極めて構造的に支配されたものであることが分かる。次は手の指の動きを、常に明確に意識していることが日常にどれだけあるのかを顧みてみよう。その意識の明白さは時に応じて薄れ、または時として極めて明確に意識するということもある。その時には高度な意識が作用している。このように自由の意識は二つの属性を有している。一つは構造性であり、一つは階層性である。これら二つの属性はヒトの言語にも観察できる。言語には構造があり、言語行為を行う際の戦略には階層性がある。言語の構造性は音韻・統語・意味の全域にわたっている。意味(概念)の構造性はRay Jackendoffによる概念構造の研究の中で一つの体系性が提示されている。 2008年3月にはAn Overview of Multi-Agenlive Phonologyを公刊し、ゲーム理論的音韻理論の理論的な枠組みを提示した。2007年7月には広島大学において東京大学のCOEとの共同開催での国際ワークショップが行われ、統語論と意味論とのミスマッチをゲーム理論的な視点から解析する等の発表を行った。
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