本年度は、自然言語意味論(生成文法意味論)の文献調査、特にDavidsonian event semanticsと、situation semanticsの分析手法をDavidsonian event semanticsに組み入れる試み(cf. Angelika Kratzer(2006)"Situations in Natural Language Semantics")の主張と研究成果の整理、そして、語彙的統語範疇の定義を意味論の観点から検討するための仮説を選ぶ作業を行った。得られた結論(作業仮説)は以下のとおりである。 1.文の意味解釈のために意味部門が文法の他の部門から必要とする情報は、統語構造と虚辞以外の形態素の語彙的意味であり、N(P)、V(P)、A(P)など、構成素の統語範疇が何であるかという情報は必要ない。 2.動詞の語幹の語彙的意味はevents/situationsのpropertyである。 3.星、花、水のような普通名詞の語幹の語彙的意味はkindsの固有名である。 4.いわゆる「外部項」は動詞の項ではないが、他動詞の語彙的意味の中には、その内部項選択に関する情報が含まれていると考える意味的証拠がある。(cf. A. Kratzer(2003)"The Event Argument and the Semantics of Verbs")従って、Hagit Borer(2005)Structuring Senseの、「語彙目録に記載された項目は『項構造』に関する情報を全く含んでいない」という主張は、そのまま受け入れることはできない。 来年度はこれらの作業仮説を出発点とし、まずMark Baker(2003)、Borer(2005)、そしてdistributed morphology理論の比較分析を行う。
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