研究概要 |
本年度はまずDistributed Morphology理論(DM)の諸論文とBaker(2003)、Borer(2005)の比較検討を行い、次にDMを採用して日本語の動詞とその名詞化の分析を行った。 得られた結論は以下のとおりである。 1言語表現の生成機構として統語部門と語彙部門を分ける必要はなく、すべての語と句が単一の規則体系によって形成されると考えられる。 2いわゆる「動詞」と「名詞」は、語根(√)と文法素性「v」と「n」とがそれぞれ結合したものであり、この2つの統語範疇が普遍的に存在するのは、(1)普遍文法の機能的素性リストの中にvとnが含まれている、(2)語根単独では意味解釈も音形(VI)挿入も受けられない、(3)命題内容を伝えるためには文の構成素として「動詞句」と「名詞句」が不可欠である、ことによる。 3語彙論者仮説のもとで語彙派生と統語派生の違いとして捉えられてきた構成素の「透明度」の違いを1の仮説のもとで説明するためには、[√+{v/n}]に特別な地位を与える必要があり、Marantz“Phases and Words"に従い、この結合がChomsky(2001)の意味での「phase」を形成すると仮定する。 4日本語の自由動詞(FV)(例:観測,研究)は統語末端部[√+v]v^0に挿入されるVIである。つまりFVは動詞(V^0の)音形であり、語根のそれではない。 5右端でFVが発音される「名詞句」[[...FV]-n](例:ガリレオの木星の観測)はFVを主要部とする動詞句の名詞化であり、その主要部nに挿入されるVIは音形を持たない。 64と5により、(1)日本語本来の拘束動詞(BV)の語根の名詞化(例:離れに住む,鯉の洗い)と異なり[[...FV]-n]の意味が常に合成的であること、(2)FVがBVのような自動詞/他動詞の交代(例:上がる/上げる)を許さないこと、が説明される。
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