本研究の最終年度であり、これまで考えてきたことを"On the Pleonastic Nature of the Perfect Gerund in English"(甲南大学紀要文学編)という論文にまとめた。動名詞を補部に取る英語の動詞の場合、単純動名詞はI tried praying.のように主節で表す時間と同時かあるいは未来時を表すのが一般的であるが、I regret seeing him.のように動名詞が単純形であるにもかかわらず、主節の時間よりも前の時間を表すことができる。しかし、一方では、主節より前の時間であることを示すために完了動名詞を使ったI regret having seen him.も可能である。本研究の特徴は、このように完了形のhavingが選択的であり、その意味でhavingが虚辞的性格を持っていることに注目し、発音にかかる経済性という観点から、英語に作用する時間解釈のメカニズムを検討することにある。本論考において、動名詞という英語固有の表現形式が他の非定型形式と異なった特徴を持っているかを明らかにすることに努めた。また、2008年12月には日本英文学会関西支部第3回大会(関西学院大学)のワークショップの司会兼講師を勤め、ここで上記論文の骨子を発表した。また2009年3月には「英語学フォーラム2009」を宮崎公立大学において開催し、福田稔(同大)と古川武史(福岡工業大学)両氏を含めた研究発表会を開き、Fortuny(2008)において提唱されている融合(syncretism)という概念で英語のthat痕跡効果をどのように捉えられ、虚移動仮説によって説明されている事実がどのように説明し得るか等の検討を試みた。これは本研究と直接関連するわけではないが、生成文法理論の新展開として注目すべき考え方であり、今後の研究の基礎をなすものと考えている。
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