1. 本研究の目的と平成20年度の調査課題 本研究では、ある特定の場面における文末表現に焦点をあてて、若年層の日本語運用の表現形式および音声的特徴を明らかにするとともに、日本語学習者にとって普通体運用の何が難しいのかを検証し、日本語教育への基礎的な資料を提供することを目的とした。平成20年度には以下の課題について調査・分析を行なった。 (1)ドイツ語および中国語を母語とする日本語学習者は、発話末のイントネーションやリズムの認知の仕方に違いが見られるか。 (2)ドイツ語圏および中国語圏における日本語教育現場において、ことばの男女差や発話の音声的特徴にかかわる事項がどのように指導されているか。 2. 平成20年度調査研究の成果 (1) 日本語母語話者および中国人日本語学習者を対象にリズムとピッチに関する音声聴取実験を行なった結果、中国人日本語学習者は音声の受容段階で母語におけるピッチ知覚の転移が観察された。一方で、日本語母語話者とドイツ人日本語学習者との比較ではリズム知覚において差が検出された。言語教育の場では一般に、母語話者が正しいと判断する教材を豊富に与えれば、学習者が正しいイントネーションを習得すると考えられがちである。が、今回の実験結果はこうした考え方の見直しを示唆するものであった。 (2) ドイツにおいても中国においても、教育現場では時間的な制約もあり、音声指導に時間を割くことが難しい状況が見受けられた。主要な教材でも、文レベルの韻律情報は文法的意味に関わる発話末イントネーションの上昇、下降に関する簡単な記載にとどまっている。しかし、インターネットを介して早い時期からドラマやアニメなどに接するなど海外の日本語学習環境が大きく変化してきている状況を考慮すれば、適切な音声指導は欠かせない。上記(1)の実験結果は、外国人日本語学習者に対するより効果的な音声指導を考える上で意義あるデータを提供しうると考える。
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