平成18年度は、国立国語研究所作成のコーパス「日本語学習者による日本語作文と、その母語訳との対訳データベース」より意見文20篇を選定し、大学教員16名(日本語・日本語教育を専門とする教員6名、それ以外を専門とする教員10名)に対して、上記20篇の作文について、わかりやすさ/わかりにくさの判定とその判定理由に関する調査を行った。その結果、意見文のわかりやすさ/わかりにくさには、文章の構成の良し悪しが大きく影響していることが明らかになった。その一方で、文法面での正確さに対しては、文章構成の良さほどには高評価が与えられないことが分かった。このことから、文章構成を重視したアカデミックライティング指導の必要性を主張した。また、上記の調査と並行して、意見文の執筆依頼及び執筆内容に関するアンケート調査を国内5大学の留学生を対象として2回実施した。平成18年度の研究成果をうけて、平成19年度においては、分かりにくい作文とはどのようなものか、という点に注目した考察を試みた。その結果、分かりにくいと評価された作文においては、主張を述べる文とそのサポートとなる事実を述べる文の対応が不完全であることを明らかにした。そして、この主張とサポートとの対応が十分でない場合、評価者の備える意見文の「ひな形」からの逸脱とみなされ、評価が低くなることを示した。以上の成果に基づいて、教材試作案を作成した。最後に、非母語話者である留学生がどのように非母語話者作文を評価するかという観点から、予備的な調査を行い、留学生と大学教員の注目点の異なりについての傾向差を指摘した。このことは、これからのアカデミックライティング指導において、どのように評価されるか、という読み手を意識したライティングへの意識を喚起することの必要性を示唆している。
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