本研究は、ヨーロッパの先端の言語政策に注目し、それが日本のモデルとなりうるかを検討することにある。ヨーロッパでは近年、言語政策の4分野(公用語、地域少数派語、移民言語、外国語教育)においてヨーロッパ共通の政策が展開され、どの分野においても目覚ましい成果が上がっている。中心的役割を果たしているのはEUと欧州評議会である。そこで19年度の研究では、EUとともに欧州評議会の言語政策に注目して以下の課題と取り組んだ。 1. 欧州評議会の言語政策の全貌と成果を、その時代的背景を含め、分野別および時系列に整理して提示する、 2. 欧州評議会の提唱する言語政策について、とくに中欧地域での取り組みと成果を調査して報告する、 3. その際とくにマイノリティ政策、言語教育の分野での成果に注目する、 4. 欧州評議会の提唱する指針に基づき、日本の言語政策の現状を記述する。 (1.に関する成果)ヨーロッパ共通の言語政策の最新動向について、5月に開催された社会人対象の講演で紹介し、さらにその内容を出発点とする論文を公表した(橋本聡2008)。2007年末にリスボン条約調印等があったためEUに焦点を当てたが、欧州評議会の政策についても多くの箇所で論じた。また日本独文学会の国際誌においてKlema & Hashimoto 2007を発表し、一部の節で1.について論じた。 (2.と3.に関する成果)成果公表の準備を行った。とくにチェコ共和国のナショナル・マイノリティ言語の問題と、言語教育分野でのRLDの成果に注目した。 (4.に関する成果)Klema & Hashimoto 2007において、欧州評議会の言語政策全般への日本人研究者の関心、受容について論じた。CEFR等の受容に際しては、日欧のコンテクストの違いに注意が必要である旨を述べた。また欧州評議会の外国語教育政策の柱であるCEFRとELPについて、平成20年4月に韓国ドイツ語教育学会において講演を行うための準備を行った。日本におけるCEFR研究を紹介するとともに、日欧の言語政策をモデル化して比較し、ヨーロッパではトップダウン的な施策が可能であるのに対し、日本ではボトムアップ的なアプローチとならざるを得ないことを論じる予定である。またオーストリアのELPを例に取り、ELPが異文化理解教材として適していることも指摘する。
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