平成18年度における研究実績の概要は、以下の通りである。 まず、8月23日〜9月2日の期間、中国の敦煌、嘉峪関、蘭州において調査研究を行った。8月25日、敦煌では敦煌研究員民族宗教文化研究所所長・西北民族大学歴史文化学院教授揚富学先生より、敦煌の現状についてご教導いただいた。それに基づき、翌26日には一日間、敦煌石窟における壁画に描かれた楽器・舞踊等の音楽描写についての調査を行った。同石窟は現在では492窟残されており、そのうち研究対象の時代である南北朝時代の石窟が36窟確認されている(北涼窟-3、北魏窟-12、西魏窟-7、北周〜隋初期窟-14)。しかし、保存上、現在、公開されている窟はわずかであり、当該時期に属する石窟の中で、調査できたのは、北魏時代5世紀後半の265窟、西魏・北周時代6世紀半ばの428窟のみであった。もっとも古い時代に属する北涼時代5世紀初めの275窟と西魏時代6世紀前半の249窟・285窟については、「敦煌石窟文物保護研究陳列中心」の運物内に復元して陳列されており、同復元窟の調査も行うことができた。8月27日には、敦煌市郊外にある西千仏石窟の壁画における音楽描写の調査研究を行った。以上の敦煌石窟壁画の調査によって美術図版集では確認できない多くの知見を得ることができた。8月28日には嘉峪関市に移動し、翌29日までの間、魏晋墓の磚画にみられる音楽資料の調査研究を行った。1つの魏晋墓の実地調査と酒泉市博物館等での調査を通して、当初の計画通り、魏晋墓の磚画に描かれた楽器・舞踊・装束等の多くの資料と知見を得ることができた。このほか嘉峪関市長城遺跡、蘭州市白塔山等の調査を行った。 次に平成18年12月22日〜24日の期間、和泉市久保惣美術館、天理市天理参考館において、北魏時代の画像石、中国の青銅器等に描かれた音楽関連資料に関する調査研究を行い、中近東文化センター(東京都三鷹市)において、ササン朝ペルシアの女神文水注等の美術工芸品に描かれた楽器資料についての調査研究を行った。これらの調査研究においても多くの音楽関連資料と知見を得ることができた。 以上の研究成果は、「嘉峪関・酒泉地域魏晋墓磚画、敦煌莫高窟壁画にみられる音楽資料について」(『西北出土文献研究』第5号、2007年3月)、「ササン朝ペルシアの美術工芸品にみられる宮廷楽器と楽人-水注(vessel)、鉢(bowl)、皿(plate)-」(『環日本海研究年報』第14号、2007年2月)として成稿した。
|