「赤蝦夷風説考」という名称で知られる林子平著「加模西葛杜加国風説考」に挿入された世界図と蝦夷図の2枚の地図の画期性を踏まえ、本書の叙述の再検討を行い、地理的認識の革新にその特質があったことを明らかにした。加えて、本書が、田沼意次と松平定信に受け入れられ、天明期から寛政期にかけての政策に大きな影響を及ぼしていたことを解明した。この成果は、『境界からみた内と外』(岩田書院、当初2007年度中に刊行を予定)に掲載すべく、入稿を済ませたが、編集が遅れており、いまだ刊行にいたっていない。 本書は、蝦夷地開発論を展開したところにも特徴があるが、近世の経世論における歴史的位置を明らかにすべく、儒学的経世論の系譜について調査を始めた。その過程で、総合博物館に、伊藤仁斎に学んだ並河天民による蝦夷地開発論の提言書の原本が、保管されていることが判明した。天民の蝦夷地開発論は近世初のものとして注目されてきたが、粗悪な写本しか知られておらず、提言の趣旨の把握は困難をきわめていた。またこの提言が実際に当時の権力主体に上申されたのか否かも不明であった。この提言に関わる周辺史料も合わせて見つかったため、原本も含めたこれら史料の研究に着手した。
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