研究課題
基盤研究(C)
本研究は、近世の肥料小売商の経営および小売市場について基礎的検討を行ったものである。近世では購入肥料は主として干鰯・鯡などの魚肥と粕類が中心であった。その流通については、近年、原直史『日本近世の地域と流通』(山川出版社、1996年)、中西聡『近世・近代日本の市場構造』(東京大学出版会、1998年)など優れた研究が出た。しかし農民への小売りについては、史料の欠如もあってこれまで十分な検討がなかった。小売りでは荒井英次「近世農村における魚肥使用の拡大」(『日本歴史』264号、1970年)が、網羅的に検討しているが、ここでは半年で20%を越える肥料商人の高利の前貸し、出来秋の現物支払いと農作物の安値引き取りという前期的資本の性格が強調されている。しかし荒井の提出した史料は主として18世紀のもので、19世紀については不十分であり、その内容も経営分析から導かれたものは少なく、再検討の必要がある。本研究では近世肥料商の経営実態を示す史料を調査し、その分析から肥料の小売りと市場を実証的に明らかにしようとした。調査では、茨城県土浦市、栃木県大平町、埼玉県さいたま市、兵庫県尼崎市、同西宮市などの調査を行い、それぞれ貴重な史料を撮影することができた。研究費交付直後に、兵庫県尼崎市の肥料商梶屋文書の存在がわかったため、畿内先進地域の分析に力点を置く予定変更を行った。同地では肥料の重要性に比べて、史料がまったく欠如していた状況であったので、貴重な成果を得ることができた。成果としては、19世紀では関東でも前貸ししても月1%程度の利子で、現金決済が普通だったこと。畿内では利子は18世紀初めから月1%で、19世紀には月に0.83%と低下する傾向があり、現金決済が一般だったことが明らかになった。さらに畿内では肥料小売商、兵庫・大坂の仲買の決済は両建てで、両替商を仲介する手形決済が行われていたこと、維新期の銀価格の低落で深刻な打撃を受けたことが明らかになった。
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東洋大学文学部紀要 61集史学科篇33号
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Bulletin toyo University NO.61 Department of History The Faculty Of Literature Vol. 33
東洋大学人間科学総合研究所紀要 7
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The bulletin of the Institute of Human Sciences,Toyo University Vol. 7
ページ: 321-336