研究概要 |
結核に関する研究は,第一に結核療養の祖といわれる白隠禅師の人と思想について,「健康」という語彙の歴史を中心にまとめた。その結果,白隠やその弟子たちによって健康という語彙が使われるようになり,それまでの養心・主,養身・従の療養思想から,養身・主,養心・従という療養思想に変わったことが背景にあることがわかった。 第二に,二十世紀初めにおける教員の結核政策についてまとめた。この時期は小学校教員に結核が蔓延し,政府は様々な結核対策に取り組んでいた。しかし,どの対策も大きな成果をあげることはなかった。理由は結核が蔓延した最大の原因が教員の劣悪な待遇にあるにもかかわらず,この待遇問題が改善されることはなかったからである。この点を当時の史資料を使って実証的に明らかにした。 ハンセン病に関する研究では、戦前・戦後の強制隔離政策推進のシステムについての資料調査をおこない、強制隔離に果たした国のみならず、地方自治体の役割の解明を進めた。その結果、住民への患者摘発の密告の奨励、保健所による患者管理などの事実が鮮明になった。さらに、1953年に成立した「らい予防法」が、その後、なぜ改正されないまま、1996年の法廃止に至ったかについても、特に法改正の議論が高まった1963年前後の資料の調査を進めた。その結果、ハンセン病が治癒しても後遺症が残り、その後遺症への社会の嫌悪感が、法律を維持させる要因であったことがわかったさらに、沖縄と日本統治時代の「南洋群島」(ミクロネシア)におけるハンセン病政策についても、現地調査をおこなった。
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