ハンセン病と比較するために、結核は以下の二点を中心に調査した。第一が戦後の結核療養所における入所者の自治活動への取組みである。朝日訴訟に象徴されるように、結核療養者の自治活動は生活改善運動に発展し、戦後の医療行政に大きな影響を与えている。そこで、この時期の療養所における結核患者の生活実態や、待遇改善を求めて行政に様々な要求を突きつけたその中身について調べた。第二は、1919年の結核予防法を中心に、この法律が成立する際の帝国議会における争点を調べた。特に結核予防法の場合、患者の届出制を先送りにしたり、ハンセン病のような強制収容が行なわれなかった事実がある。この背景には結核患者の数が膨大であることもあったが、一般病院の顧客が減ることも大きな理由であることがわかった。 ハンセン病については沖縄の資料調査を継続するとともに、軍隊に入隊後、戦地で発症した患者の処遇について、結核の場合との相違を調査した。結核発症の要注意者の処遇については防衛省防衛研究所などの所蔵文書で明らかにできたが、ハンセン病患者の処遇については記録が少ないため、全国6か所のハンセン病療養所で15人の体験者からのききとりをおこなった。その結果、結核の要注意者は保育隊に編成され、訓練を軽減して体力の回復を図るなどの処置がとられたのに対し、ハンセン病を発症した者は即、隔離されるという明確な相違があることが確認できた。
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