本年度は、まず2005年夏のパイロット研究で入手した婚姻許可状台帳の入力作業を実施し、これを夏までに完了した。その後、二度にわたり研究対象地域であるシリアの訪問(6月:イスラーム法廷史料ワークショップでの研究発表、9月:ビラード・アッシャーム国際会議への参加)が可能となったため、急遽、シリア人専門家に二冊の結婚契約台帳(1934年)のデータ閲覧、エクセル入力及び印刷を依頼した(研究補助)。この作業が完了された後、日本に帰国して、改めて1902年から1927年までの婚姻許可状台帳と今回の1934年の結婚契約台帳データを比較した。その結果、今回の史料が以前のものよりも遥かに詳しい内容を含んでおり、それ自体分析するに値する良質の史料であることが明らかとなった。また、1907年住民台帳データベースと1934年の結婚契約台帳との間には四半世紀以上の時期のずれがあるものの、部分的には重複するデータが存在することも確認できた。したがって、1902年から1927年までの婚姻許可状台帳、1934年の結婚契約台帳に1907年の住民基本台帳を加えた上で、20世紀前半におけるダマスカスの都市社会の変容プロセスを分析するという当初の基本方針に問題がないことが明らかとなった。 秋以降は、これまでの研究成果を取りまとめるべく、執筆にとりかかり、1902年から1927年までのオスマン帝国の都市イスタンブル、ダマスカスの結婚性向を、歴史人口学を用いて多様な観点から比較した論文を学術誌に投稿し、3月末に刊行された。これとは別に、最近発表されたオスマン帝国時代の結婚やジェンダー、社会構造に関する研究書・研究論文の収集に努めた。
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