本研究の目的は、未刊行の「棺案」史料(行政文書)および地方新聞・稀覯雑誌を系統的に収集・分析し、1940年代中国の戦時動員がもたらした社会変容を、当時の中国国民政府の拠点であった四川省(日中戦争期および戦後内戦期)と長江下流域(戦後内戦期)の農村部を主な対象として解明することである。本年度は、上記の研究目的に沿って、研究代表者である笹川は、9月9日から13日まで上海市棺案館を訪問し、未刊行の関連史料を調査した。これは、当初の「研究実施計画」に記載した台湾の文書館訪問の代替措置であったが、これによって戦後内戦期の長江下流域における戦時動員(とりわけ兵士の動員)の実態を示す貴重な史料を多数収集することができ、今後の研究成果につながる実りある作業となった。他方、同時期の四川省については、同じく研究代表者は、本研究で購入した『新新新聞』や政府機関紙などを駆使して、戦時動員にさらされ混乱をきわめる地域社会の具体的様相を描いた論文を公表した(後掲の「研究発表」欄、参照)。これによって、国民政府の崩壊、人民共和国の成立とその権力の浸透といった、後の政治的激変を招く社会的条件が形成される過程をより具体的に解明することができた。なお、この論文の内容の一部を使って、四川大学が主催した学術研討会で研究発表を行った。また、研究分担者である奥村は、人民共和国初期(毛沢東時代)の歴史的特質を大きく傭撤した論文を公表したが、その分析視角は、3年間にわたる本研究の具体的成果が十分に踏まえられている(後掲の「研究発表」欄、参照)。
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