(1)昨年度の協定に基づき、敖漢旗博物館においては、夏家店上層文化を中心とする館蔵文物の整理、写真撮影、解説執筆を進めていたが、2007年9月にこの作業を基本的に完成し、およそ100件の画像および解説が、田彦国館長より研究代表者に送付された。従来未公開の資料群であり、『敖漢旗文物精華』に発表済みの資料とあわせて、DBのかたちに編集した。まずは冊子体の形態で、最終年度の研究報告書に掲載する予定である。 (2)昨年度に引き続き、敖漢旗を中心とする内蒙古東部地区の考古学諸文化について、夏家店上層文化を中心に整理を進めた。本年度はとくに、「農牧交錯地帯」における新石器〜初期鉄器時代の環境変化に対する研究状況に重点を置いた。このため、研究分担者1名にて2007年5月29日〜6月4日および8月20日〜9月7日の2回にわたって、中国農業大学(北京市)・内蒙古自治区博物館(フフホト市)・赤峰市博物館(赤峰市)・遼寧省博物館(瀋陽市)などにおいて関連資料の収集を行った。 (3)夏家店上層文化を文献に見える民族集団に比定する従来の諸研究を検討した。昨年度公刊した「史記匈奴列傳疏証」において、夏家店上層文化を山戎に比定すべきことを確認したが、本年度は東胡・貊について検討を進めた。東胡はかつて夏家店上層文化の担い手に比定されたことがあり、貊は十二台営子文化や夏家店上層文化の衰退後に敖漢旗地域に出現した鉄匠溝遺跡の担い手に比定されている。これらの説の根拠となる文献資料に対する包括的検討を進め、確実な知見の構築に務めた。
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