平成20年度においては、研究成果報告書を作成した。報告書は研究篇・資料篇の二部構成を採る。研究篇には、以下の6篇の論文を収めた。(1)夏家店上層文化研究の現況-近年の環境考古学的研究に寄せて-(吉本道雅)、(2)内蒙古東南部出土中原有銘青銅器札記(吉本道雅)、(3)先秦北族関係文献の研究-夏家店上層文化の族属をめぐって-(吉本道雅)、(4)契丹小字『金代博州防禦使墓誌銘』墓主非移刺斡里朶-兼論金朝初期無「女真國」國號-(愛新覚羅烏拉煕春)、(5)金代契丹人習撚鎮國墓所出帛書考(愛新覚羅烏拉煕春)、(6)〓思涅烈家族與東丹國世選制(愛新覚羅烏拉煕春)。(1)〜(3)は夏家店上層文化およびそれに後続する諸文化に関わる考察である。(1)は考古資料、(2)は出土文字資料、(3)は文献に基づき、夏家店上層文化の族属に関わる問題を多面的かつ包括的に考察している。(1)では近年の環境考古学の発展をふまえ、中国北彊への遊牧民の南下を展望し、(2)では西周金文断代の修正案を附記し、(3)は<第一章 戎秋><第二章 貊><第三章 東胡>の構成をとって、中国北疆に出現する異族の実態につき、その出現の順番に検討を加えた。(4)〜(6)は、本研究の調査対象である敖漢旗出土の遼金時代文物をあつかった専論である。資料篇は、「内蒙古自治区敖漢旗博物館館蔵資料図録」と題して、敖漢旗博物館提供の夏家店下層文化〜戦国期の関係資料のカラー図版ならびに解説を掲載したものである。『敖漢旗文物精華』に既発表のもののほか、従来未公開のものを含め、合計110点の文物を紹介するものであり、関連研究に重厚な基礎資料を提供するものである。
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