本研究は、インド内及びインド洋周辺海域世界、さらに、東アジア(日本を含む)に広域ネットワークを拡張したインド人商人(特にムスリム)を取上げ、その経済的活動のみならず、滞留・定住先の地域での社会・宗教的活動や政治的関与などを、包括的に調査・分析するものである。また、本研究では、こうした研究のためには新しい歴史史料の探求が不可欠であるとの認識に立ち、文書史料や口述資料の収集を主目的の1つに位置づけ、精力的に試みている。文書史料に関し、本研究で特に試みてきたのは、商標や意匠、特許、営業ライセンス、会社組織、譲渡、寄進などに関わる諸制度とそれらに付随する登記資料などの体系的な把握・収集である。すでに、海外調査を繰り返し行い、旧英領インドや海峡植民地、蘭領インド、香港、日本などにおいて実施された上記のような諸制度に関係する原典資料の所在を把握し、それらを系統的に収集する作業を進めてきた。また、口述資料では、インド人商人関係の同業組合や地縁組織、そして、個別の企業家の子孫を歴史的に辿り、聞き取りによる史料収集を進めている。また、インド人商人とパートナーや競合相手として関係を有した日本人の企業家も対象として、同様の口述資料の構築を図っている。 本研究では、植民地体制が用意した諸制度に、どのようにインド人商人が戦略的に便乗し、自己のネットワークを構築したかを明らかにしながら、19-20世紀前半における西欧植民地体制のアジアにおける展開を、在来商人や資本の戦略と動態の文脈で再検討する作業を、進めている。
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