本年度の目的のひとつであった、シュメール語王讃歌の楔形文字資料、校訂テキスト、関係論文の収集を行った。特に、ウル第三王朝の諸王の讃歌を集中的に集めた。故ジェレミー・ブラックがはじめたウェッブサイト上のシュメール語文学テキストの公開は、この作業に大変役立ち、時間を短縮することが出来た。なお、王讃歌においてウル第三王朝に匹敵する数が残るラルサ王朝の諸王の讃歌と、それらのデータベース化は来年度以降の課題になる。 資料収集には、大学院生に手伝いを願い、謝金はそれに支払われた。また、カラーコピー機も資料収集に必要となり購入した。多くは、書籍や資料の購入に費し、貴重図書の閲覧や研究者との討議のための出張旅費にも科研費は使われた。 本年度には、王讃歌の内容分析でなく、より一般的に、王讃歌と王碑文や年名との関係について理解を深めることが出来た。第一に文体の問題であり、王讃歌がウル第三王朝時代に成立したことで、神話などの文学作品に通じる王讃歌の文体は、王碑文や年名に流用されるようになり、本来事実を直蔵に表記していた碑文や年名が文飾著しい書き方に変わった。第二が、作成意図の問題である。王讃歌が成立すると、王碑文は、王を讃えるために軍事的勝利、神殿建立、運河開削などの複数の治績が書かれていたが、それがなくなり、個々の業績だけを記録することになる。王を讃えるのは王讃歌に頼るようになった。
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