王が自己を表現する手段としては初期王朝時代以来王碑文が存在したが、ウル第三王朝時代になると王讃歌が加わることになった。本課題の目的のひとつが、王碑文と王讃歌における表現を対比させることで、王権のあり方を検討することにある。 王碑文に現れる王号は一定であり、シュルギの場合、治世前半では前王ウルナンムの王号を継承して、「強き者、ウルの王、シュメールとアッカドの王」を名乗り、後半では「強き者、ウルの王、四方世界の王」である。しかし、シュルギ王讃歌では、後者の王号が、シュルギ王讃歌Aに1例現れるのみである。王讃歌では、王を形容するのに「王lugal」よりも、王碑文に全く現れない「牧夫sipa」や「王侯nun」が多用される。羊飼いのように、人々を善導する王=「牧夫」や、王に相応しい高貴な者=「王侯」として王は表現される。功業よりも、王権の正統性を主張することが王讃歌の目的であると考えることが出来る。 ウル第三王朝時代になると、王権は、王冠、王杖、玉座の3つで象徴される。シュルギ王讃歌の表現では、王冠は神々の世界である天上世界の支配者アンが与え、王杖は地上の支配権を持つエンリル神が与え、玉座はエンキ神がその支配領域である地下の深淵に基礎を据えた永遠で強固なものと定めた。三大神が支配する天と地と地下の3世界に根ざす王権と表現したのである。 王讃歌は、宇宙論的観点から、神々との関係で王権を捉えるのであり、神々との関係をどのように描いたのか、とりわけ、王都であるウルの都市神ナンナとの微妙な関係を考察する必要がある。それは次年度の課題であり、最終報告書の主要テーマの一つになると考える。 なお、本年度において、図書・史料の収集、旅費を使っての研究者との意見交換は進んだ。データベース化も一定の進捗があった。しかし、データベース作成を補佐できる適切な者を探すことが出来ず、謝金は未使用となった。
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