今年度は、日本植民地下の朝鮮華僑の実態と構造分析の本格的研究を目標とした。まず第1に、不明のまま残されていた抗日戦争時期の朝鮮華僑の実態を臨時政府や南京汪政権との関係、特に朝鮮華僑の親日と抗目の構図から論及し、新たな研究を開拓した。第2に、万宝山・朝鮮事件をとりあげ、日本・朝鮮総督府の政策、朝鮮民衆による華僑虐殺の実態を深く考究した。これに対する蒋介石・国民政府の華僑政策と中国民衆による対日経済絶交運動の実態を明らかにした。かくして、朝鮮華僑の実態のみならず、日本の「大東亜共栄圏」下での華僑構図への考察を深め、従来の関連研究を前進させることができた。 (1)朝鮮華僑や戦時期の関係史料は東洋文庫などで調査収集した。国内旅費、史料コピー費はこれに充てた。 (2)朝鮮華僑研究と並行的に欧米華僑の新史料、補強史料の発見に努め、抗日戦争時期における欧米華僑研究の準備を開始した。新研究であり、先行研究もほとんどない。日本では関係史料はかなり不足している。そこで、海外旅費を使用し、フランスの国立図書館、リヨン市立図書館、及びドイツのベルリン国立図書館などで欧米華僑史料の調査、発掘をおこない、仏独華僑の動態に関する貴重な史料を無事入手できた。まだ不十分で、補強史料は必要であるが、研究期間内に戦時期の欧米華僑に関する論文を完成できる自信を得た。 (3)物品費により華僑関連の図書・新聞を購入した。 (4)研究成果として後述の如く「万宝山・朝鮮事件の実態と構造-日本植民地下、朝鮮民衆による華僑虐殺暴動を巡って-」、また戦時期の朝鮮華僑の論文も発表した。それらの背景となる戦時期研究も深めることができた。こうして、本年度の研究計画を完遂した。
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