本年度は、当初の計画に従って、17世紀における領邦郵便の成立の問題を検討し、ブランデンブルク選帝侯領における領邦郵便およびザクセン選帝侯、ブラウンシュヴァイク公、ヘッセン方伯を中心とする北ドイツの諸侯領における領邦郵便の成立の過程および同時代の帝国郵便との関係に関する史料調査を行い、雑誌論文「近世ドイツにおける郵便レガーリア-帝国郵便とブランデンブルク郵便-」を執筆した(2007年4月末刊行予定)。本論文において、独自の領邦郵便を作る一方で、郵便という事業の性格上、広域にわたるネットワークの構築が必要であり、領邦外へあるいは領邦外からの情報伝達のために、近隣の領邦郵便および帝国郵便と提携していく姿を具体的に把握することができた。特に、領邦郵便の誕生にとって、法的な側面で問題だったことは、郵便レガーリアをめぐる問題だった。この問題はさまざまな場面で議論が繰り返されたが、結局解決することはできなかった。郵便の法的権限が未解決なままで、実際の郵便事業は展開し、帝国郵便と領邦郵便が協定の締結を通じて提携関係に入ることが、近世ドイツにおける郵便の特色の一つと言うことができる。 本年度はまた、近世ドイツにおけるコミュニケーション革命が引き起こした人びとの意識上の変化に関する問題の検討を新たに始めた。コミュニケーションの技術的発展、郵便組織および道路等のインフラの整備に伴って、同時代の人びとの時間意識および空間意識がどのように変化したかという問題である。本年度は、こうした問題を検討する前段階として、まず研究史の整理を行い、時間意識に関しては、さまざまな都市条例および時刻表を、空間意識に関しては、地図および旅行関係の印刷物(旅行ガイド、旅行記など)を史料として利用することで、意識の変化を具体的に把握することが可能なことが判明した。次年度以降の課題として取り組むことができる。
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