初期キリスト教史にかかる研究文献とラテン教父史料及び古代ローマ史にかかるローマ市トポグラフ、政治史研究などの文献の購入を進めた。昨18年度に購入したローマ帝政期の彫刻等芸術品に関する研究文献、また連合王国ロンドン大学古典学研究所において調査、研究した、初期キリスト教徒のイタリアと北アフリカにおける状況、などの成果を踏まえて、19年度も史料・文献の詳細な研究を遂行した。 リビア共和国に出張し、古代ローマ市のローマ教会と当時ローマ帝国属州であったリビアのキュレネ、プトレマイス、トリポリの古代遺跡と各地博物館において調査を行った。ことにトリポリにあるサブラタ遺跡博物館では、4世紀のキリスト教モザイクと壁画について詳細な観察を行った。 研究成果の一部を、「初期キリスト教の周緑部」と題して平成19年度歴史学研究会大会(6月東京大学教養学部)で報告し(10月に学会誌で公表)、研究課題を、キリスト教を古代地中海世界の諸宗教のひとつという面で捉え、ユダヤ教の周縁部からキリスト教が発したこと、ローマ帝国都市の神々と皇帝礼拝になじまないキリスト教徒も市民ではあり続け、そこから一般市民との間に周緑的関係を結んだこと、などを報告し、討論を行った。この報告は世界史において宗教が異文化間接触に際して形成する周縁部分という共通テーマに、初期キリスト教研究者として招かれたもので、新しい知見を提供できた。 最後に、本課題の中心的テーマ「ローマ市の初期キリスト教」を論文として執筆、20年3月に公表した。史料状況が不十分な中、本研究により獲得できた資料と、それを踏まえた研究成果の、なお中間的ではあるが、一応の集大成として、ローマ市とイタリア半島の1世紀から3世紀までのキリスト教の実態を出来る限り性格に跡づけた論考である。 以上に加えて、ローマ史初期キリスト教徒史に関連する研究書の書評、学界動向等を学会誌に執筆し、当該分野に貢献する成果を挙げた。
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