本科学研究費プロジェクト4ヵ年計画の二年目にあたる平成19年度は、平成18年度に引き続き、人種関連やジェンダー・セクシュアリティ関連の専門書の収集に努め、また7月〜8月にかけてはアメリカ合衆国の3都市(バークレー、ロサンゼルス、ニューヨーク)の図書館・文書館をまわり、異人種間混交に関わる法制度分析の基礎的史料や優生学運動に関する一次史料を渉猟した。 研究発表としては、まず6月にアメリカ学会のシンポジウム「歴史と記憶の制度化をめぐって」にて「ホロコーストのなかの「アメリカ」-アメリカ優生学運動の歴史-」を報告した。これは昨年度、調査を実施したポーランドのアウシュビッツ収容所や米独の文書館での優生学運動に関する成果報告であり、アメリカ合衆国のなかで戦後に記憶され制度化されていくホロコーストの歴史を批判的に検証した。また、ミネルヴァ書房から「アメリカ研究の越境シリーズ」第二巻『権力と暴力』に、論文「移民国家アメリカの「国民」管理の技法と「生-権力」-人種主義と優生学-」を執筆した。アメリカ合衆国の革新主義期の社会運動や社会政策を、「生-権力」の観点から整理し、優生学的知を柱とする運動として歴史的に同時代を捉えなおしてみた。本論文は同シリーズ第6巻の座談会でも多くの評者が高く評価したうえ言及しており、アメリカ研究における権力論や人種主義と優生学運動に関する研究史に一石を投じる意義を持ったと思われる。
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