本科学研究費プロジェクトの最終年度にあたる平成21年度は、人種関連やジェンダー・セクシュアリティ関連の専門書の収集に引き続き努めるとともに、3月には、優生学関連の個人ファイルが多く所蔵されているフィラデルフィアのアメリカ哲学協会において、とくにチャールズ・ダベンポートの個人ファイルを集中的に調査した。これにより、アメリカ国内のみならずイギリス・ドイツ・日本の優生学者とのトランスナショナルな関係や、産児調節運動など他の組織・団体との関係についても整理でき、大きな成果をうることができた。日本においては、基本史料や文献リストもない段階で開始したプロジェクトとしては、この4年間で組織レベル・個人レベルでの史資料をかなりの程度集めることができたので、研究上の意義は大いにあったと考える。これらの研究成果は、本年度刊行された『アメリカ史研究入門』や『アメリカ・ジェンダー史研究入門』などで、アメリカの人種・ジェンダーなどについて執筆するにあたって大いに役立った。とくに、後者では「優生学」のコラムを担当し、最新の知見を紹介することができた。また、『人種の表象と社会的リアリティ』の第一章に掲載した「アメリカ合衆国における「人種混交」幻想-セクシュアリティがつくる「人種」」では、同時代の異人種間結婚禁止法について分析し、アメリカにおける「人種混交」幻想について検証することができた。これにより優生学運動の隆盛の背景にある人種秩序をめぐる時代背景についても、考察することができた点は大きかった。
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