19世紀末から20世紀初頭のイングランド国内で開催された地域イヴェントについて、それらのイヴェントがイギリス社会に与えたインパクト及び本国社会と帝国との多面的な相互関係を究明するために、今年度は20世紀初頭のイングランドで開催ブームが巻き起こったパジェントを中心とした調査・研究に着手した。国内及びイギリスの研究機関における調査などにより、基本文献の入手・閲覧と合わせて、同時代史料の収集とデータの整理を行った。 本年度の調査・研究で明らかになったのは次のような点である。イングランドでは1905年のシャーボーンでのイヴェントを契機として、地方都市を中心に1914年までの間に約30件にものぼるパジェントが開催された。ロンドンでのパジェントもさることながら、とくに地方の中小都市でパジェント・ブームがごく短期間に急速に過熱したことが数量的にも確認された。それぞれのパジェントは、開催理念、企画・運営形態、公演の態様などに一定の共通性をもちながらも、各開催地の地域社会が帯びる多様な社会的・文化的性格を反映したものであった。また、パジェントの内容は「地元の歴史」を主題としたものであったが、それは必ずしも狭義の地域史や都市史、あるいは先行研究で強調されるようなイングランド史にとどまるものではなく、海外とのつながり、とりわけイギリス帝国史にまで拡がる文脈で語られ、演じられるストーリーであった。 これらイヴェントのもつ経済効果の問題も含めて開催地社会の構成員の行動や心性にパジェントが与えたインパクトや、首都ロンドンとは異なる地域社会独自の社会的ないし文化的な要因や条件などを明らかにするような研究の方向性もある程度つかめてきたが、その詳細については次年度に継続して分析・解明・考察を進めていく予定である。
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