今年度は、すでに入手した史資料の整理から始めて、地域イヴェントを開催した都市の政治・経済・文化状況を把握し、当該イヴェントをめぐる議論・言説の様子を分析・解明した。 まず、当該テーマに関する基礎的な知見をまとめた別記のような論稿を公にした。また、昨年度以来の研究遂行過程で明らかになった先行研究や同時代史料等の状況に鑑みて、地域イヴェントのなかでも20世紀前半、とくに第一次世界大戦をはさんでイギリス各地で盛んに開催された野外歴史劇「パジェント」に研究対象を絞りこむことが本研究の目的にもっとも適合し、研究実施期間内に最大限の成果を得られると判断した。したがって、今年度の主たる作業は、第一次世界大戦前の10年間にイギリス各地の都市で開催されたパジェントに焦点を絞って、開催地の当時の政治・経済・文化状況及びパジェント開催をめぐる議論や言説についてさらに分析・考察を進めることとなった。さらに研究を遂行する過程で新たな史資料を入手する必要が生じたため、イギリス(ロンドン)で史料調査を行った。 その結果、従来のイギリス近代史研究の領域においては詳細にわたってとりあげられることがほとんどなく、本格的な考察や議論も手薄であった同時期のイギリスにおける地域イヴェントとしてのパジェントの実像と位置づけが明らかになってきた。とくにシティズンシップ、帰属意識、ガヴァナンスの問題に関わる言説や各都市の実情が明らかになり、それらと「地元経済への波及効果」「他都市との比較・競争意識」の言説が交錯して現れたこと、あるいは開催都市と同名の海外諸都市が序列・階層をもって表象されたことから地方都市とイギリス帝国のプレゼンスとの相互関係がうかがえることなどが解明されつつある。最終年度(平成20年度)における研究成果のとりまとめに向けて着実に歩を進めることができたものと考える。
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