本年度はこれまで明らかにしてきた研究課題の成果を下記の学会(審査有)で口頭発表した。 第58回日本西洋史学会大会近世史部会II(島根大学、2008年5月11日)以下は概要。 近世イングランドのコーンウォルでは、ケルト系言語コーンウォル語(ケルノウ語)話者や、すず鉱業従事者「ティナー」が、独自性の強いコミュニティを形成していた。本報告の対象時期16世紀末から17世紀半ばにかけて、イングランドにおいて最多の下院議席が同州に配分される一方、皇太子であるコーンウォル公爵が、「コーンウォル公領」と、すず鉱業者集団「スタナリーズ」を中世以来統括しており、これらは国制史上の同地域の顕著な特色である。特に、コーンウォル公爵下の上記の二機関を通じた王権とコーンウォルの人々の強固な結びつきは、内乱期の王党派に多数の住民が加わった同地域の「忠誠」の問題に関る重要な論点となってい。本報告ではスタナリーズの状況について実証的に検討し、この時期、すずに関る利益を追求する王権は、財政的欲求からすずの流通に積極的に介入した。国王大権による課税の正当性を議会で厳しく問われ続けた当該時期の王権は、ロンドン商人を先買請負人としてすず流通に介入させることで、請負人からの多額のレントを歳入とし、これを維持するために従来の王権=スタナリーズ間の緊密な関係性を揺るがしかねない財政諸策を取り続けたのである。また、これに対するティナーの反応や、外部勢力とティナーの関係性について、英国公文書館所蔵(The National Archives:旧Public Record Office)の資料を中心に分析し、近世コーンウォルの地域性をめぐる議論の端緒とする。王権歳入請負人の業務とそれに直接対応した地域の鉱業関係者の関係性が40年余りの間にどのように変化したのか、実証的に提示することができた。
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