本研究は4年計画でフランス・ヴァロワ家ブルゴーニュ公第三代フィリップ(在位1419-1467年)の財政構造を1420-30年代のブルゴーニュ地方に限定して実証しようとするものである。そのために、 (1)同地方の全8税収管区(公領6管区+伯領2管区)それぞれの財務史料を収集・分析し、財務の常態を正確に理解することを調査の主目的とした。その際1420年代末に現れる一般税収漸減傾向に着目し、これが短期的・局所的な景気動向か、長期的・広域的な構造変動かを考察することとした。 (2)1420年代初頭の金融市場の動向と貨幣政策(貨幣の質と発行総量と発行時期)の策定意図を解明する。そのために財務官僚が作成した説明資料ないしその草稿、ディジョン造幣所の記録、1421年にマール単位で実施した「借り上げ」の経緯、および1423年の両替規制令を分析する。 (3)徴税請負やブルゴーニュ公の側近として活躍した地元貴族の動向調査。その一例としてブルゴーニュ地方の税収人ジャン・フレニョJehan Fraignotの訴訟(1432-33年)を詳細にする。被告フレニョは通貨価値が激しく変動した1415年から1421年の間に発生した債権と債務をパリ会計院の指針を遵守せず、不適切に圧縮処理し、差分を横領したとして起訴された。この訴訟記録から会計院と財務官僚の思想を読み取る。
|