研究概要 |
本研究計画は、9〜10世紀の東フランク・"ドイツ"王国における政治構造とエトノス生成の諸相の特質を、主として政治・国制史および社会人類学の視点から解明することを目指すものである。その初年度である平成18年度の研究では、まず、1,9〜10世紀の東フランク・"ドイツ"王国における政治構造やエトノス生成を考察するための基本史料の調査・収集に重点を置いた。中世ドイツ史の史料集成MGEの該当巻や、他の史料集に収録された重要史料は、相当程度収集することができた。特に、南山大学のカール・F・ヴェルナー文庫や、一橋大学、慶応大学の図書館での調査・収集は、通常では入手困難な史料や研究書・雑誌論文等の入手を可能とするものであり、極めて有益であった。この作業は、平成19年度以降も継続されることになる。次に、2,特に重要と目される史料箇所・史料術語について、予備的検討を加えた。問題となったのは、「ゲルマン人Germani」、「フランク人Franci」である。前者については、常識的理解とは異なり、民族移動期以降の史料に現れる用例数がかなり限定されていること、後者については、フランク時代以降の用例数がその史料の性格に応じて相当のばらつきが見られることを、さしあたり確認している。3,史料解釈上の方法論の確立という問題との関連で、民族の「起源説話Origo gentis」の重要性をあらためて認識した。直接の契機は、本研究と密接に関連するアルハイディス・プラスマン(ボン大学)の教授資格取得論文『起源説話Origo gentis--初期・盛期中世の出自物語におけるアイデンティティ・正当性の創出』が、2006年に公刊されたことにある。本研究の対象では、10世紀のヴィドゥキントが唯一取り上げられているにすぎないが、このモノグラフィーは、広範な時代・地域を視野に収めつつ史料類型の問題や比較研究の意義など興味深い史料解釈の方法論を種々提示しており、裨益するところ大であった。最後に、4,本研究の主題と密接に関連する最新研究の翻訳をおこなった。ヨアヒム・エーラース「ネーションの形成とライヒ」(1992年)がそれであり、原稿は既に完成・提出しているが、他の研究者の訳稿のとりまとめ等の出版に伴う準備作業が遅延しており、刊行は、平成19年度以降になる予定である。
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