研究課題
基盤研究(C)
1.本年度は、「研究実施計画」の予定通り、フィリップ・オーギュスト時代(1180-1123)の裁判・行政関係の史料を精査した。また、メーヌ・エ・ロワール県の県立古文書館とフランス国立図書館において関係する未刊行史料を収集することができた。その結果として、おおよそ以下のようなあらたな知見を得ることができた。(1)フランス西部地方の修道院が関与した裁判では、12世紀前半には旧式の証明方法である神判・決闘はほとんど用いられなくなる一方、逆に12世紀中には、周辺住民を宣誓させたうえで尋問する方法(宣誓調査)が上級貴族(アンジュー伯)によって導入されはじめる。この地域に隣接する王領でも、12世紀半ば(ルイ7世時代)以降、おそらくはその影響を受けつつ、宣誓調査の事例が裁判史料のなかに散見するようになる。(2)フィリップ・オーギュスト時代には、聖職者の世界とは異なり、世俗領主間の係争と領主裁判のレベルでは、いまだに神判・決闘がある程度有力な証明方法の地位を保っていた。フィリップ自身が国王役人に神判を課しているし、都市的集落にあてた「解放文書」のなかにもそれへの言及が見られる。(3)しかしこの時代には、王国の裁判・行政の分野で大々的に宣誓調査が活用されるようになったことを確認することができる。行財政に関わるものとしては、封臣の封建契約履行の調査、司教座空位時の国王取得財産の調査、1204年のプランタジネット家所領(ノルマンディー、アンジューなど)征服後の諸権利・財産の調査など、宣誓調査は王国と王権の現状を認識しかつ整序する重要な統治技術となりはじめていたということができる。また国王法廷に持ち込まれる事件の多数を占める、領主権関連の訴訟においても、国王は宣誓調査を重視しはじめるようになる。以上の成果については原稿を準備中であるが、執筆中の博士論文のなかに書き下ろし分として組み込む予定である。2.研究目的のひとつである、13世紀のフランス王権の理念についての考察を含む論文を発表した。このなかでとくに、王権と関係の深い歴史叙述のなかに、国王の権威を皇帝のそれに擬するという13世紀のカペー家の覇権的な統治プログラムが読み取られることを論じた。3.次年度以降は、計画通り、聖ルイ時代のパリ高等法院の裁判史料と1247年の王国宣誓調査記録を検討する。
すべて 2007
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『中世ヨーロッパにおける「過去」の表象と「記憶」の伝承-歴史叙述・モニュメント・儀礼-』京都大学大学院文学研究科21世紀COEプログラム「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」サブ・プロジェクト「ヨーロッパにおける人文学知形成の歴史的構図」国際セミナー報告書
ページ: 31-42