本年度は、大きく3つの課題を設定して研究を進めた。 第1の課題は、朝鮮半島における横穴式石室の出現・展開過程の比較研究である。検討の結果、朝鮮半島南部における横穴式石室の出現および展開過程を、大きく2時期に分けて理解することができた。第1の画期(4世紀後半〜5世紀半ば)は、朝鮮半島北部以外に、漢江流域および錦江流域の一部、洛東江流域の一部に横穴系墓室が出現する時期である。石室の構造や墓制には、各地域の在地墓制と折衷した場合が多い。第2の画期(5世紀後葉〜6世紀)では、朝鮮半島各地に横穴式石室が広がる。特に6世紀後半以降、高句麗・百済・新羅の王陵に採用された石室や墓制をモデルとする墓制が、階層差をみせながら普及する。こうした横穴式石室の動向は、日本列島における横穴式石室の出現・展開とも対比できる。以上の研究成果の一端は、大韓民国金海市で開催された国際会議(4月26日、国立金海博物館)などで口頭発表した。 第2の課題は、洛東江以西地域の竪穴系墓室における「棺」・「槨」の再検討である。出土した鎹や、副葬品の配置の検討を通して、玉田古墳群・内山里古墳群・道項里古墳群では鎹を用いた「棺」が存在する可能性が高く、またこうした「棺」構造が、6世紀に出現する横穴式石室にも一部継承されたと想定した。こうした見通しの妥当性については、来年度に検討をおこない、その上でその研究成果を公表できるよう努力したい。 第3の課題は、植民地朝鮮における考古資料撮影技術の考古学史的検討である。本年度は、特に考古資料の写真を撮影した人物が果たした役割についての検討を進めた。その結果、朝鮮総督府の写真担当嘱託であった澤俊一の経歴を明らかにすると共に、澤が発掘調査においても重要な役割を果たしたことを明らかにした。こうした研究成果の一端は、SEAA第4回世界大会(6月5日、中国社会科学院)で発表し、論文を作成した。
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