1.熊本県上天草市千崎古墳群の発掘調査の実施 昨年度に引き続き、千崎古墳群所在の5号墳および25号墳の発掘調査を実施した。これにより、5号墳では横穴式石室の前庭部構造および閉塞方法が解明された。また25号墳では、それが長さ64cm、幅27cmのきわめて小さな箱式石棺であることが明らかとなった。以上をもって、千崎古墳群における予定の発掘調査をすべて終了した。なお、この成果は『考古学研究室報告』第44集で公開した。 2.熊本県上天草市カミノハナ古墳群出土遺物の再整理作業の実施 昨年度に引き続き、カミノハナ古墳群の1981・1982年度調査による出土遺物の再整理作業を実施した。これにより、出土した円筒埴輪や形象埴輪、短甲、鉄鏃、装身具などの詳細が明らかにされるとともに、天草諸島北部地域における古墳時代中期の古墳動向の一端が示された。 3.熊本県宇城市松橋前田遺跡A地点出土埴輪の整理作業の実施 カミノハナ古墳群出土埴輪との対比資料として、宇城市所在の松橋前田遺跡A地点から出土した円筒埴輪を整理し、その内容を明らかにした。これは1965年の検出以来、未報告になっていた資料であるが、きわめて良好に遺存するもので、窖窯焼成技術導入後の熊本県地域における埴輪生産の様相を解明するうえで大変重要な遺物である。 4.総括報告書の作成 以上のうち、とくに2・3の研究成果を総括し、さらに、8人の研究協力者による個別研究成果を収録した研究成果報告書『八代海沿岸地域における古墳時代在地墓制の発達過程に関する基礎的研究』を編集、発行した。これは、八代海沿岸地域の古墳時代墓制のみならず、前方後円墳築造周縁域における古墳動向を日本列島規模で比較研究するためのきわめて重要な基礎データとなりうると自負している。この成果を基礎として、さらに古墳時代墓制にかんする研究を発展させていく所存である。
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