本年度の自然科学的調査は、朝倉氏遺跡及び奥州藤原氏関連遺跡から出土した漆器を中心に実施した。分析した朝倉氏遺跡出土漆器35点のうち2点が、花崗岩質砕屑物を含む火山灰が混和された地粉漆を下地として塗布していた。これまで中世城館跡および近世大名屋敷跡から出土した漆器の塗膜断面構造解析を通して、下地混和材として火山灰が使用されたことを指摘してきたが、今回の調査によって、新たに花崗岩質岩を源岩とする砂を混和した下地が認められた。また、もう1点は花崗岩質岩を源岩とする砂を混和した地粉漆を下地としていた。下地混和材の鉱物組成に差異がみられることから、この2点及び1点はそれぞれ異なった地域で製作された可能性がある。 藤原氏関連遺跡では、柳之御所及び金剛院等から出土した漆器20点について実施した。また、地粉の原材料として、昭和の大修理時に使用した中尊寺地粉との化学組成の比較検討も行った。中尊寺地粉は岩石・鉱物学的分析およびEPMA分析結果より、珪長質な火山灰を素材としていると判断された。また、近接する柳之御所遺跡から出土した漆器(盤)塗膜断面の岩石鉱物学的見地から、粒径の大きなものはバブルウォールタイプの透明火山ガラス片が主体であること、そのほかに斜長石、単結晶石英などが認められた。また、EPMAによる定量分析の結果、混在するガラス片はCaO-Na_2O-K_2O-FeO-Al_2O_3-SiO_2系で、上述した中尊寺地粉のガラス片ときわめて近い化学組成をとることがわかった。この解析結果は、珪長質な火山灰を主体とする下地調整材料が金色堂製作に使用され、同時に当時の什器製作にも用いられていた可能性が高いことを示している。 漆器制作現場の聞き取り調査は、新潟漆器、鳴子漆器、越前漆器について実施し、現在の作業工程、材料等の知見を得た。
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