本年度は一乗谷朝倉氏遺跡出土漆器の未調査資料4点、新たに調査対象遺跡とした博多遺跡群出土漆器4点について、18、19年度と同様な方法で分析調査を実施し、中世漆器下地に関するデータの更なる蓄積に努めた。さらに、18〜20年度に実施した調査・分析の解析結果を本研究の成果としてまとめ今後の関連研究へ備え、成果の一部は文化財関連外国誌に投稿した。 朝倉氏遺跡出土資料の分析は、箱縁部断片、箱蓋部、椀、および鉢からサンプリングした。その結果、これまでに確認された鉱物下地である花崗岩砕屑物を含む火山灰を混和した下地と花崗岩砕屑物を起源とする砂を混和した下地に加えて、新たに変成岩を岩源とする物質とカリ長石の斑昌を含む流紋岩質火山灰が加わり4種類に分類された。特に、鉢で確認された紅柱石は、これまで実施した朝倉氏遺跡出土漆器資料で初めて検出された鉱物である。博多遺跡群出土漆器は、椀、皿等4点からサンプリングし分析に供した。角閃石、透明な単結晶石英、斜長石、および火山ガラス片が混在し、深成岩片がみられる試料もあった。これより下地調整材として火山灰が使用された可能性があり、また、深成岩片は人為的混和か、あるいは火山灰中に混在していたかのいずれかで今後更なる検討が必要である。 下地に注目し、岩石鉱物学的見地を加味した本研究の結果、列島の中世出土漆器の技術的特徴の一端が明らかとなった。本研究手法を他の遺跡出土漆器にも適応し、データを蓄積することで、その実態がより明らかとなろう。特に、今後は中世漆製品における舶載品と国内製品の分類の可能性を探り、中世漆工史に新たな視点を見出すことが求められる。
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