研究概要 |
再葬墓の可能性のある墓地について、墓地の人骨や土器棺の搬入・搬出関係を分析し、他集団からの移入者の存在を明らかにするのが本研究の目的である。なお、昨年度までにすでに分析試料を採取した人骨については、本研究実施期間中に分析が間に合わず、また中部・関東・東北南部の再葬土器棺における炭化物の残存状態が悪く、一定地域内でのまとまった資料群を確保するのが難しいことが判明した。そこで、再葬土器棺の可能性のある愛知県馬見塚遺跡出土縄文時代晩期後半の馬見塚式の土器棺群などを中心に、比較的時代・地域が同一なものについて同位体分析を実施した。 分析の結果、年代については、これまでの分析例とほぼ同様な傾向を示し、食性分析では馬見塚遺跡出土試料のなかに^<13>Cがわずかに卓越し,δ^<13>C値が-10‰近くにもなるC_4植物が混在していることから、雑穀食の存在の可能性が示唆された。こうした土器棺は、日常用に使用後、棺として用いられた可能性がある。また、馬見塚遺跡の3点について,いずれの炭化物も別個体であるものの,2点は安定同位体比,C/N比ともに近い値を示し,起源物質の類似が推定された。それに対し,1点のみ異なる傾向を示しており、分析試料数が極めて少ないものの、仮に本遺跡を形成した集団の食性がほぼ均一で土器での煮沸対象にもばらつきがなかったとすれば、土器棺群のなかに、本遺跡以外の地点で使用後に搬入して棺に再利用した土器が存在していた可能性も全くは否定できない。該期の土器棺の同位体分析例は極めて少なく、食性分析から集団構成の問題を扱った研究はほとんどない。今後同一の遺跡内でのグルーピングが可能になるほどの測定例が蓄積されれば,集団内の分類が可能となり、集団の移動などの問題をさらに議論できるであろう。
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