研究概要 |
本研究は、スウェーデンのセルマ・ラーゲルレーヴ(Selma Lagerlof)の著作『ニルス・ホルゲルソンの不思議なスウェーデン旅行』(Nils Holgeerssons underbara resa genom Sverige)を手がかりに地理教育の本質的・普遍的意義を明らかにすることを目的とする。 研究2年度にあたる今年度は、8月24日から9月5日に現地調査を行った.新たな資料を王立図書館、ストックホルム市立図書館、古書店などで収集するとともに、新刊の研究書なども入手した. 踏査は、コールモルデンの森、トーケルン湖などエステルヨートランド地方を中心に行い、同書の記述を現地にたどり、記録するとともに、その後の変容、現状について調査した。その結果、同書の詔述が史実や現地の状況に即したものであり、現地調査が筆者自身によって行われた可能性が高いこと、またこれらの地域が現在環境保全のシンボル的地域になっていることが明らかになった。 国内においては、収集資料や現地調査の成果の整理・分析,聞き取り調査などを行った。 その結果、同書成立の背景に新教育運動の影響、国民学校のテキスト改善という現場教員、保護者の要請、ノルウェー分離などにともなうスウェーデン国家のアイデンティティの確立という国家的要請、などがあることを明らかにした。また成立には依頼した側と依頼されたラーゲルレーヴとの間にその内容を巡って意見の相違があり、ラーゲルレーヴの積極的なアイディアが最終的には採用されたこと、執筆にあたっては全国の教師組合や観光協会からの資料提供、著者自身の実地調査などにより情報が集められ、それをもとに筆者が独自に著したこと、執筆後には内容に関して専門家などのチェックが入るなどしたこと、など同書が一大プロジェクトの賜物であることが明らかになった。
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