本研究の目的は、日本の近世以降に個人が残した貴重な日記を収集、データベース化し、全登場人物の行動様式、行動範囲を分析することによって、当該地域・時代の地理的・社会的背景を明らかにすることである。近年、社会科学の分野で「日記」の価値が見直され、庶民の生活の復原をもとに、当該時代の社会構造の一端が明らかにされつつあるが、その成果は数の上で少なく、かつ研究内容も限定的である。本研究が「日記」に注目したのは、たかが個人の記録で客観性がないと過小評価されがちな日記に光をあて、その価値に市民権を与えることである。今年度は第1に尾張藩士、朝日文左衛門の記した元禄時代の曰記『鸚鵡籠中記』の翻刻、データベース化をおこなった。第2に種子島の大崎蘇市氏宅にて入手した日記資料のうち第二次世界大戦前の分の翻刻、データベース化をおこなった。第3に山梨県南アルプス市西野の中込家に残された「源吉日記」(明治中期〜昭和初期)において日記に登場する人々が活動した御勅使川扇状地をフィールドワークした。これら当初予定していた日記分析を開始するなかで、新たな地(北海道、礼文島)で数十年間日記を書き続けていらっしゃる現役の漁民K氏(86歳)に遭遇した(9.18)。 学会活動においては、ドイツ、ハンブルク大学で開催された国際歴史地理学会(2006.8.20-24)で日本の近世・近代の農民生活史について報告した。
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