ドイツの諸都市に存在している問題地区を再生するための事業である「社会的都市プログラム」の思想的背景と実施にいたるプロセスとを論文にまとめ、学会誌に投稿し掲載された。「社会的都市プログラム」の成否の鍵を握っているのは街区マネジメントであるという認識がドイツの学識者と都市政策担当者との間で共有されている。 そこで本年度の現地調査では、調査対象地区として設定した問題街区のうち、ベルリンで3箇所、ドルトムントで2箇所の街区マネジメント事務所を訪問し、住民のエンパワメントや街区再生事業への参加に最も貢献した事業と、ガバナンスをめぐる都市自治体との関係などについてインタビューを行うとともに、調査対象地区の既存の社会的資本の実態を把握するための文献探索を、関係する文書館で行った。その結果、街区再生のための住民運動はベルリンでもドルトムントでも1970年代あるいは1980年代からの長い歴史を有しており、したがってアクターが既に存在しており、その経験が現在における各街区での住民の街区再生事業への参加を促している側面があるという仮説を得るにいたっている。 他方、昨年度の調査で入手した資料などをもとにして、そもそも都市内の地区間格差がグローバリゼーションの進展とともに拡大したのか、社会的空間的なセグリゲーションが激化したのかをドルトムント市に即して検証した。その結果、伝統的測定手法に従えば移民とドイツ人との間の社会的空間的セグリゲーションが進展したとは言い難いが、特定街区の人口に占める移民と社会的弱者の比率が高まってきたことは事実であり、この意味において社会的空間的セグリゲーションが拡大したという認識が生まれたものと考えられる。
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