研究概要 |
本年度は、調査対象地である滋賀県大津市栗原地先において、捕獲した2頭のイノシシ(オス:推定40kg,オス:推定50kg)にGPS装置を取り付けた。1頭は、5月中旬に捕獲し、首輪型のGPS装置が脱落する7.月中旬までのデータを、他の1頭は、9月上旬に捕獲し、翌年1月初めに捕獲されるまでのデータをそれぞれ分析した。 その結果、イネの収穫期前から収穫期頃にかけて(当地では、キヌヒカリという品種が栽培され、9月20日ごろまでに収穫される)、イノシシが放置竹林や耕作放棄地、耕作地周辺の残滓などを選択的に利用していること、収穫後は木の実を求めてアベマキ-コナラ群集などの山林に移動することが判った。今年度の成獣のオスのGPSテレメトリー調査からは、春先からイネの収穫期頃にかけて集落や耕作地周辺の比較的狭い範囲で活動し、収穫後、木の実のシーズンになると山側に広域に移動するイノシシの行動特性が浮かび上がってきた。そこでは、放置された竹林や耕作地、ヒコバエや田畑の残滓などが餌場、潜伏場所、移動経路などになっていることも明らかとなってきた。 滋賀県から隣接の京都・福井にまたがる広域な地域を移動した後者のオスのデータからは、直線距離でも40km以上も移動するオスイノシシの行動が本邦で初めて確認され、イノシシ被害への対応は、広域の地域の連携で行う必要があることも判ってきた。 今年度は、オスの成獣のデータが得られたが、さらにメスや子イノシシのデータも収集し、分析していく必要がある。イノシシの農業被害対策においては、イノシシの生息地管理が重要なポイントになることが判ってきたが、メスや子イノシシのデータを分析することによって、イノシシがどのような環境で出産・子育てをしているのかについても検討していきたい。
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