昨年度は、2頭イノシシ(すべてオス)にGPS機器を装着した。1頭は5月中旬に捕獲し、首輪型のGPS装置か脱落する7月中旬までのデータを、他の1頭は9月上旬に捕獲し、翌年1月初めに捕獲されるまでのデータをそれぞれ入手し分析した。その結果、イネの収穫期前から収穫期頃にかけて、イノシシが放置竹林や耕作放棄地、耕作地周辺の残滓などを選択的に利用していること、収穫後は木の実を求めてアベマキ-コナラ群集などが実をつける山林に移動することが判った。 イノシシの生態を解明し、イノシシによる農業被害との関係を分析するには、その地域の複数の雌雄のイノシシの情報が必要となる。そのため本年度は、メスと子イノシシのデータ収集を主目的にイノシシの捕獲作業を行った。 子を持ったメスイノシシの捕獲は、子が先に捕獲檻に入ってしまい、それによって入り口のドアが閉まってしまうため母親が逃れることが多い。そのため捕獲作業は容易でないが、それでも7月に出産間もない子を連れた母イノシシを捕獲することができた。そこで、このイノシシにGPS機器を装着した。しかし、2週間あまりでGPS機器からの情報を受信できなくなった。乳飲み子を連れているため、遠隔地に移動することは困難と考えられるが、範囲を広げての捜索でもGPSからの電波を受信することができなかった。GPS機器の故障や何らかのトラブルにあった可能性がある。 GPSによる追跡はこのような結果になったが、捕獲場所が放置竹林や耕作放棄地周辺の林地であったこと、GPSが受信できていた2週間余りの時期も、放置竹林や耕作放棄地周辺で活動してしたことから、出産期のイノシシがこのような生息環境の中で子を出産し、子育てをしていることが示唆された。昨年度のオスのデータと合わせ、イノシシがこのような環境利用のもとで周辺のイネなどに被害をもたらしていることが指摘されよう。
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