年間50億円に達するイノシシ被害に対応するためには、イノシシの行動特性を分析する必要がある。本研究では、滋賀県比良山地山麓の農業被害多発地域を対象に、GPSテレメトリーによる行動特性の分析を行った。当地では、水田(キヌヒカリやコシヒカリなど)への被害が4月下旬の代掻き以降から9月下旬の収穫期にかけてみられる。GPSから得られたデータは、このような被害が、放置された竹林や耕作放棄地への竹林の侵入がイノシシの餌場を生み出し(モウソウチク、ハチク、マダケを合わせると、2月頃から8月頃にかけてタケノコが食料になる)、さらに耕作放棄地に侵入したクズ、ササ、ススキなどの藪地がイノシシの餌場、潜伏地、移動経路などになっていること、そして、そのために耕作地周辺にイノシシが居つくために生じていることを示した。 また、成獣オスの一個体は、イネの収穫期の前後から翌年の正月にかけ直線距離で50kmにおよぶ移動をみせ、GPSテレメトリーにより広域に移動するイノシシのデータも得られた。
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