本研究の目的は、近代的な人権概念を正当性根拠として伝統文化の変革を求める社会運動の比較文化分析を通して、文化に潜む人権侵害の問題と、人権概念に潜む西欧中心主義の問題とを考察することである。特に、日本を含む非西欧世界において、文化変革運動の担い手たちが、自社会の伝統文化をどのように捉え、どのように問題視しているのか、また自文化変革要求の正当性根拠として、西欧起源の人権概念をどのように受容または流用しているのか、また、そのような非西欧世界の人権運動が、西欧的な人権概念に対して投げかける問題提起をすくいあげ、西欧起源の人権概念の普遍性と相対性とを、入類学の視点から問い直すことを目指している。 本年度は、日本語の「権利」および「人権」という概念の成立と変容の過程を探求するため、基本的な文献資料を収集整理した。また、一般庶民の抱く人権概念を分析する手がかりとして、法務省と全国人権擁護委員連合会が1毎年開催している全国中学生人権作文コンテストの入賞作品、法務省作成野ポスターなどの収集を開始した。その他、人権擁護運動に関するホームページなどを閲覧し、その内容の整理と分析を開始した。これら資料の詳細な分析は、次年度以降に行う予定である。 平成19年3月には、ミシガン州立大学において人権研究を専門とする人類学者と意見交換を行うとともに、ボストンで開催されたアジア研究学会において各分野の人権研究者と意見交換を行った。さらに、ボストンで女性の人権擁護運動に従事する活動家と意見交換を行い、資料を収集した。こうした意見交換を通して、グローバル化とともに国際的な規模で広がる不平等と「構造的な暴力」の問題が、近年の人権問題と密接に関連していることが明らかとなってきた。
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