本研究の目的は、近代的な人権概念を正当性根拠として伝統文化の変革を求める社会運動の比較文化分析を通して、文化に潜む人権侵害の問題と、人権概念に潜む西欧中心主義の問題とを考察することである。特に、日本を含む非西欧世界において、文化変革運動の担い手たちが、自社会の伝統文化をどのように捉え、どのように問題視しているのか、また自文化変革要求の正当性根拠として、西欧起源の人権概念をどのように受容または流用しているのか、また、そのような非西欧世界の人権運動が、西欧的な人権概念に対して投げかける問題提起をすくいあげ、西欧起源の人権概念の普遍性と相対性とを、人類学の視点から問い直すことを目指している。 本年度は、昨年度に引き続き、各種人権啓発活動に関するパンフレットやポスター等の資料の収集に努めるとともに、特に女性に対する暴力(ドメスティック・バイオレンス等)の問題に関して、活動家の人々や被害者本人と意見交換を行い、当事者たちの人権意識を探った。またドメスティック・バイオレンス被害者が当事者となっている訴訟の判決等の収集を通して、女性の人権に関する司法関係者の意識を探った。さらに、ドメスティック・バイオレンス防止法に反対する市民グループの声明文等の検討を通して、「家族」に関する文化価値の多様化と人権との関係を考察した。
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