本研究は、近代的な人権概念を正当性根拠として伝統文化の変革を求める社会運動の比較文化分析を通して、文化に潜む人権侵害の問題と、人権概念に潜む西欧中心主義の問題とを考察することである。特に、日本を含む非西欧世界において、文化変革運動の担い手たちが、自社会の伝統文化をどのように捉え、どのように問題視しているのか、また自文化変革要求の正当性根拠として、西欧起源の人権概念をどのように受容または流用しているのか、また、そのような非西欧世界の人権運動が、西欧的な人権概念に対して投げかける問題提起をすくいあげ、西欧起源の人権概念の普遍性と相対性とを、人類学の視点から問い直すことを目指している。 本年度は、障害者の人権に焦点を合わせ、日本と他の東アジア諸社会との比較分析を行った。その結果、日本における「障害」概念の特色として、これを「個性」と捉える価値観が近年一部の障害者の間で普及し、そうした「個性」を否定することなく、一般社会において、健常者と対等かつ平等に暮らす権利を、障害者の人権として主張し始めていることが明らかとなった。いわば土「違いへの権利(right to difference)」の主張である。 また、アメリカ人類学会において、ドメスティック・バイオレンスと人権概念の関係に関する研究発表を行った。
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